大道芸人インタビュー 桜小路富士丸 【後編】

震災があって目が覚めたんだよね。

─社会問題や環境問題への関心は強く持ってたんですね。

そうですね。例えば電力会社やパチンコ屋なんかのイベントは以前から断ってました。

でも、お金がものすごくいいの。そういう類いの仕事って。
環境問題をある程度意識している芸人さんでも、電力会社の原発推進イベントを請けてる人も残念ながらいるんだよね。

Co2は減っても、核の猛毒がゴミとして大量に残るのにね。
私は「電力会社が原発推進をやめるまでは出ません」って断ってた。

─でもしばらくは社会問題や環境問題から離れていた時期があった。

辛いことを考えるのが重くなってたのは事実。
例えば、海外の貧しい子どもへの学資支援として何年間も毎月送金をずっと続けてるんだけど、毎月募金をしているユニセフから、定期的に送られてくる情報誌の貧しい子供達を見るのが辛すぎて、そのまま捨ててしまう。
お金を入れますから、もう許してください!って辛くなってしまう。まるで免罪符みたいだよね。

お友達とおしゃべりしたり、ランチしたり…、そんなことのほうがよっぽど気楽だった。ここしばらく地震があった直前まで自分の目の前が平和だったから、他でもない私自身が平和ボケしてたんだよね。
原発の危険性だって、知らなくてボケてるんじゃなくて、知ってるのにとぼけてた。

こんなことになって、考えることから逃げてた自分の弱さも分かって、私は誰も責める資格なんて無いと思った。

3月11日、地震があった当時フジテレビで収録中だったの。6月か7月に放映予定のパフォーマーの見本市みたいな番組。すごい豪華ステージで、照明もギラギラで、スタッフもすごい人数でほんとバブリーだった。

ギターの服部こうじ君と一緒にリハーサルを終えて、控え室に居た時に急にぐらぐらっと来て。「たぶんこれどっかで大地震だわ」って嫌な勘がピーンってきた。急いで外にでたらテレコムセンター裏のビルが燃えてるし、もうヤバいことになったな、これはって。

しばらくして揺れが落ち着いてきたから、またお台場のフジテレビの中に入って、ピカピカできれいなガラス張りのフジテレビにおいてあった大きなスクリーンで最初に目に入ってきたのが、田んぼがワーって飲み込まれるあの津波の映像。

そのとき涙が出てきた。もう私何やってたんだろうって。
こんなイベント芸人なんてちゃんちゃらおかしいよ…って。それで目が覚めたんだよね。
生活の為のお仕事だけに時間を使うんじゃない、問題意識から逃げて流されるのはやめようって。

長い目で、チャリティーも自分のライフワークにしていこうと。

─チャリティー活動もされているんですよね。

出来ることを続けたい、って思ってる。

誰しも辛いことって長く考えていられない。適度に抜かなきゃそれこそ心が折れちゃうもん。
でも意識はずっと持っていなきゃ。耳をふさいだり、忘れたりしちゃいけない。

だから、長い目で続けられる形でのチャリティーも自分のライフワークにしていこうと思ってます。少なくともこれから10年は。

─最近はどんなチャリティー活動をされているんですか?

私には大した芸はないけど、悪く言えば器用貧乏、良く言えば総合力がある。絵の力、歌の力、しゃべりの力、見た目も化粧さえすればそんなに悪くないし(笑)、子供を育てた知識とか、人脈を作る力とか、総動員してお役に立てる方法を模索してます。

例えば、問題意識や不安をもってるお母さんたちに、私が原発や不安なことを勉強して咀嚼して、私の言葉でみんなに解説したりするのも好き。
お母さんたちは勉強する時間なんてないんだよね。
子供にミルクをあげなきゃいけないし、私も経験あるけど産後って脳が不安定だからパニックになっちゃう。
冷静になってなんて言われたってなれないんだよね。

この間、銀座でやったイベントなんかは、そんな原発の裏話や、電気の話をいっぱい混ぜていっそのことPA使うのやめようって生声で歌ったの。
情報規制がはじまってるから、気をつけなきゃいかんかな?(笑)

似顔絵だけを描きに行くこともあります。写真は大阪の老人福祉施設なんだけど、80〜90歳過ぎの頭のしっかりしたおばあちゃん達と会話しながら似顔絵を描いて、売上は全て義援金にしたのです。
そうするとたくさん払ってくれる人もいるし、ただ見て笑ってるご老人も「私も協力させて」って、義援金だけ入れてくれたりするの。

この日は女性が多かったから、まだ脱水機が手回しだった頃のお洗濯の仕方とか、どうやって夏場冷蔵庫なしで過ごしたかとか聞けて、私もとても楽しかった!

もちろん、私も私の家族を養わなくてはいけないから、チャリティーは出来る範囲で、ね。
無理したら自分の生活が続かないから。

“エンターティナーだからこうあるべき”っていうような定義は私にはないし、”エンターティナーとしてのみ使って下さい”ってのもない。
私でお役に立てるなら炊き出しでもマッサージでも(笑)。
本当にちっちゃな事しか出来ないけど、私のあらゆる力を使っていただきたいですね。
自分の無力は承知の上で、ただ自分が楽になりたくてやってるだけ。

シンプルライフと大道芸、似ている要素があるとおもう。

復興っていっても、またもとの日本に戻すんじゃなくてちゃんとビジョンを持つべきだと思ってる。
贅沢すぎる日本が狂ってたことをちゃんと認めて、自分でできるやらなきゃいけないこと、温かいことを探すっていうのかな。
不便は不幸じゃないっていう意識をもってね。

この間のライブでも歌ったんだけど、私が好きな古いジャズの中にこんな歌があるの。

♪私、もっとシンプルな生活がしたいの
マッシュポテトやトマトをちょうだい、高級なお肉なんていらないの
小さいおうちで家族と笑っているのがいいの
ハイウェイなんて選ばないわ
下の道でゆっくりいくの
ちょうだい、私にシンプルライフを

この歌みたいに、お鍋で炊くお米って美味しい!とか、ぬか漬けって簡単だね、とか、日々の生活で感じる美味しかったり、楽しかったり、そういうハッピーなことを見つけて、ペースダウンしながら柔らかい時間を増やしていく作業をしていきたい。

大道芸ってそういう要素がたくさんあると思うの。
テレビみたいにうるさくないし、おもしろいなあっていう喜びや感情を全く知らない人と共有できちゃう。
まるで昔の街角のテレビみたいだよね?

大道芸は不便かもしれない。地べたに座って、おしりも痛いだろうし、急に雨が降るかもしれない。でもそういうハプニングやアクシデントも全部ハッピーになっちゃうのが大道芸の魅力のひとつなんだよね。

大道芸はもっと求められて然るべきものだと思うの!
ぶっちゃけると、一時期は私も紫外線がいやだから大道芸やりたくないの、って時期があった。
でも、今は多少日に焼けても、私を必要としてくれるところだったらいくつもり。体力の続く限りはね。
大道芸や小さなお祭りなんかのイベントをどんどんやってくってことが、これからの素敵な日本を作るために必要だと思ってる。
私は福島第一原発とあんまり歳が変わらないけど、女はこれから!まだまだ行きまっせ~♪(笑)

ヨコハマ大道芸2011

桜小路富士丸さんは4/16、4/17の横浜ワールドポーターズに出演します。
出演スケジュールはこちらをごらんください。

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桜小路富士丸(似顔絵エンターテイナー)
名古屋出身、横浜市在住。似顔絵、パントマイム、ジャズシンガーと幅広く活動している。パントマイムを松元ヒロ氏(元「THE NEWS PAPER」のスタンダップコメディアン)に師事。JAZZ Vocalを大西義雄氏に師事。現在フリーパフォーマーとして、全国で活動中。
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取材・文・写真/木村 綾