大道芸人インタビュー まろ 【後編】
─ジャグリングについてまろさんが考えていることは?
僕自身、ジャグリングは技が全てじゃないっていう意識はあるんですけど、もし本当に自由に道具と一緒に演技をしたり、表現をしたいと思ったら、しっかりと技術を習得するべきだと思うんです。技術で精一杯になってしまったら表現どころではない。
ジャグリングって、一般的にスポーツ的な技術重視のジャグリングか、アート的な表現重視なジャグリングかのどっちかに分かれがちなんです。
で、お互いがお互いを認めないことが多い(笑)
Tシャツ短パンでずっと技ばっかりやってるのを、アートジャグリングの人達は「面白くない」って言ったり、スポーツジャグリングの人達は、「輪っかをもってなんかカッコ付けてやってるわ」「あんなのジャグリングじゃない」って言ったり。
でも僕からすれば、両方高いレベルで持っていればいいじゃないかって思う。
例えばフィギュアスケートって、スケートの高い技術があることは当然で、その上に身体能力を高めるためのトレーニングや、表現の訓練もしていきますよね。
テクニックだけでも表現だけでもないんです。
ジャグリングも同じだと思います。
表現っていうのは、「少ない技術をいかに凄そうに魅せるか」っていうことではないんですよね。
やる以上は、「これだけしかできない」ではなく、全てのことをしっかりやっていきたい。
世界中のプロフェッショナルのジャグラーが観ても、何か特別なものを感じてもらえるようなもの、どこでも自信をもって出ていけるジャグラーでいたいと思ってます。
─体づくりで意識していることは?
学校の授業でやったのがきっかけで、12年間柔道をやってました。
筋トレは毎日やってるんですけど、柔道やってた時みたいに戦う体が必要なわけじゃないんで、自分の体重を使った腕立て、腹筋、背筋スクワットとか、器具を使うとしても、せいぜいバーにつかまってけんすいとか、足をあげて腹筋とかで、自分の体を使った以外マシンのトレーニングはしません。
あとはランニングですね。
食事については、あんまり気にしてないです。
塩分や夜遅い食事は避けるようにはしていますが、普段体を動かしてるのでジャンクフードでなければ結構なんでも食べてます。
だから練習やめたらあっという間に太りますよ、多分(笑)
─表現を磨く上でやっていることはありますか?
日本にいる間は、週に2回、ダンスのクラスに通っていました。
ジャグラーとしてではなくダンサーとしてダンスの舞台にも出演したりしています。
「ジャグラーががんばりました」じゃなくて、純粋にダンスだけでも魅せられるよう、ダンサーとしての体も磨いていきたいんです。
いろんな振り付けがあるので、自分が持っていない動きを練習することで感性や表現も磨くことができるんですよね。
他には、ドイツ留学の前に日本舞踊を2年程やりました。
日本舞踊もそこの流派の発表会で一人で踊らさせてもらって、それも本当にいい勉強になりましたね。
─勉強のために舞台を観に行ったりもしますか?
そうですね。
置かれている環境のおかげで自然と一流のショーや舞台、コンサートなどはたくさん観ていると思います。
でも、特に「勉強をしよう」と意識してなくても、自然に世界の様々な芸術、表現に触れているという感じなんです。
だから普段の生活の中でも、表現することや様々な人の哲学や生き様など自然と意識を向けています。
あとは、毎日の練習。
僕はアーティストっていう面もあるんですけど、アスリートとしての面もあるので、練習は欠かさずやっていますね。
─今後目指していることをお聞かせください。
「新ジャグリング」という、ジャグリングを新しいスポーツとして確立させようという活動を去年の12月に始めました。
「新ジャグリング」は決められた時間の中で演技をして、審判がいて、技術点や芸術点で採点をして競うんです。新体操みたいなニュアンスと考えてもらっていいと思います。
フィギュアスケートやシンクロナイズドスイミングのように、ジャグリングも表現スポーツとして確立させていきたいんですよね。
テクニックやフォームをきちんと学び、バレエの訓練やストレッチや筋トレなどで身体訓練も積んで、アスリートとしての選手を育てていきたい。
総合的に訓練したジャグリングっていうのは、一部のサーカス学校やサーカスの家族とかであったりとかはするんですけど、一般的ではないんです。
でも、サーカスの一握りの人達だけが訓練するんじゃなくて、もっとたくさんの人達が訓練していけば、トップのレベルはさらに高くなると思うんです。
ただ単純にすごい技ばっかりがテレビで流れても、とにかくすごいのはわかるけどすぐに飽きてきちゃう。
でもフィギュアスケートだと、試合としてのドラマもあって飽きずに観てられますよね。
新ジャグリングもそうなって行きたい。
それも変なおじさんがやってるとかじゃなくて(笑)ちゃんと訓練したジュニアからの女の子とか男の子がやってたら応援したくもなるかもしれないし。
最終的には、ジャグリングっていう言葉の意味やイメージを変えていきたいですよね。
ベルリンにて、新ジャグリング指導中
時間がかかると思いますが、子供たちが試行錯誤して練習して、育って選手になってそれが引退して、その子供たちが指導者になったら、次の世代っていうのは爆発的に伸びるだろうなって思うんです。
本当に最初の形になるまでが5年くらいで、次の世代がまた10年とか、かかっていくと思うんですけど。
他の国ではやってないことだからだこそ、やる価値はあるんじゃないかなって。
─少林寺みたいですね。
少林寺、そうですね。
難しいのは、教室をやってもなかなかストイックにやりにくいっていうことですよね。
厳しくやるといなくなっちゃうし。だけど少林寺みたいな形でやりたいですよね。
合宿して、みんな朝4時に起きてみたいな感じで、掃除から始まってって。
そういうふうにしたいなあ(笑)
─6月からまたヨーロッパに行かれるということですが。
前回ドイツから帰国したとき、日本にはちょっと滞在して、1年くらいでドイツに戻ろうって思ってたんです。
結局それが伸びて2年ちょっと経ってしまったんです。なのでやっと戻るって感じですね。
ベルリンにて(まろさん撮影)
文化庁の留学は、2年間途中で戻ってきてはいけないっていう決まりがあったんですが、今回は自分次第なので、あんまり厳密に考えずに状況によって自由にやっていきたいと思ってます。
日本の春と秋はイベントシーズンなので、戻れるときに戻ってきて、真夏や真冬はヨーロッパでっていうのもいいかなとも思ってますし。
ドイツでは、ヴァリエテっていう劇場のショーがあるんですが、主にそれに参加する予定です。
大道芸は、そもそもヨーロッパでは1回もやったことがないんですよ。全部劇場の中ですね。
ベルリンにて(まろさん撮影)
─最後にヨコハマについてお聞かせください。
横浜、いいですよね。僕は出身、横浜なんです。
出身どこですか?って聞かれたら胸をはって「横浜です」っていいますもん(笑)
関内の方とか元町の方とか石川町とか、そういうエリア、あっちの文明開化の香りのする、横浜の港エリアは本当に好きです。
同じ大道芸をやるなら地元でも活動できるといいなっていう思いがあったので、横浜で大道芸ができることを嬉しく思ってます。
僕にとっての日本はイコール横浜。
日本のどこにいても、世界中どこに行っても、結局僕にとって戻ってくる場所はやっぱり横浜なんですよね。
横浜出身。舞台役者を経てサーカスの道へ。ジャグリングや身体表現等、多様な技術を駆使して活動しつつフランス、スイス、ドイツのサーカス学校で研修。自身もヨーロッパ各地のステージに招待アーティストとして多数参加。 ヨーロッパトップレベルのショービジネス界に本格進出した初の日本人ジャグラー。
(※このインタビューは2011年5月31日に行いました)
次回インタビューはチョコ摩訶サーカスさん(予定)です。公開は8/1を予定しています。お楽しみに!