大道芸人インタビュー un-pa 【後編】

その時その場でかりそめにも出会えるっていう所に一番の魅力があるんでしょうね。

─un-paさんにとっての大道芸、そして舞台の魅力とは?

例えば作品を見せるっていうことであれば大道でやるっていうのは条件悪いんです。
“僕はこういう世界をもってて、その作品を見てください”っていうのであれば劇場のほうがやっぱりいいんですよ。

でも、いつもおんなじ舞台で固定客の前だけでやるのではなく、全然僕のことを知らないような人の前でやる。
お客さんと向きあう、見てもらうには大道芸っていうのが一番ダイレクトなんです。

それこそ、お客さんと僕も知らない人同士、お客さん同士も知らない人、お客さん自体も僕を知らない人だっている。
大道芸っていうひとつの仕掛けがある中ではあるんですが、知らない人同士が、その時その場でかりそめにも出会えるっていう所に一番の魅力があるんでしょうね。

コミュニケーションっていうところでの醍醐味が占める割合が高いんだと思うんです、大道芸は。
見せる技や芸の内容もさることながら、人が集まって、そこで何か言葉を交わすわけではないんだけど、その場にいる、その空気感っていうのがいいんですよね。

打席に例えると、舞台の場合だと必ず当てにいかなきゃっていうつもりでやるから逆に空振りが入ったり余計な力がはいったりするんですけど、大道芸だと一日3回やったら、まあ何回かは外してもいいか、って感じで力が抜けている分「自分ってこれだけ思いもしないことをやれちゃったよ」っていう、舞台じゃ出せない僕の魅力が大道芸で出せたりもする。

舞台ばっかやってると(大道芸の)パフォーマンスで発散したいってなるし、パフォーマンスばっかりやってると、じっくり見てもらえるものをやりたいってなったり。舞台と大道芸、両方あったほうがいいんですよね。

─今後新しくやってみたい芸などありますか?

舞台ではちょこちょこ色々な事をやってるんですけど、大道芸っていうとネタがあれしかないんです。
まあ正直言ってやれる場所があんまりないんですよね。
例えばの話ですが、商業施設でアレができるかっていうとできないでしょう(笑)

なので、今のちょっと特殊な芸とは別に、もうちょっとマイルドなやつをやりたいって思っています。
アレはアレで勢いだけでやってるような内容なんで、自分が今まで培ってきた経験なりでもうちょっといろいろなことが出来ればなあって。

僕は普段そんなに社交的じゃないんで、返ってくるっていう反応が、糧になっているんです。

─un-paさんを支えている物は?

自分を支えているものっていうのはやっぱりお客さんですね…いい意味でも悪い意味でも。

単純によかった、おもしろかったって言われればそれが糧になるし、まるっきりトンチンカンなことを言われたとしても僕のこういうやり方じゃ僕の思っているようには届かないのか、って思って、それに対してチクショウ、と思うこともある。

僕は普段そんなに社交的じゃないんで、自分の出したものが返ってくるっていう反応が、糧になっているんです。

割とひとりで居るのが好きっていうのもあるんですけど、ひとりでいるとどんどん内向的になっちゃうんですよ。
だんだん、なんでもかんでも億劫になってきちゃうんです。
ポテトチップ食べながら漫画よんだり映画みたりっていうのが好きな方なんで(笑)

だから、自分が何か投げかけたものに対して反応があると、「ああ、そんなことしてちゃダメだ」って思うんです。
でもその投げかけがなくて返りもないと、どんどん「明日でいいや」みたいになっちゃって。

─ものすごく穏やかに見えるんですけど、中では色々あるんですね。

なんか…すぐ内向的になっちゃう(笑)
人と会いたくないってなっちゃうんです。
極力、人と接するようにはしようと思ってるんですけど、さりとてそこまで活動的じゃないですし…。結構起伏は激しいです…(笑)

─本やDVD以外に、感性を磨くためにしている事はありますか?

全然関係がなかったり接点がないことをあえてやってみたりしてます。
例えば、映像のワークショップに行ったりとか、ジムでベリーダンスのレッスンを受けてみたりとか。

普段って自分の得意なことしかやってないんですよね。全然やったことがないことをやってみると、周りのみんなが簡単そうにやっていることが全然できなかったり「あ、こういう体の使い方があるんだ」って気づくこともあるし、そういう場に居る人たちって全然今まで付き合いがない人と出会うわけで。
一度やってみて「これは全然関係ない世界だ」って思ってやめちゃうこともあるし、ちょっと面白いなって何回か行ってみたりすることもあります。

─ベリーダンスは今でもやってるんですか?

今はやってないです…けっこう三日坊主なんです(笑)

他には…例えば、自分の興味のなかったトークショーを観に行ったりしますよね。
大概の場合はちんぷんかんぷんだったりするんですけど、そのなかで自分の知識の中で繋がっている分野が見えたりすると「あ、あれってこういうことなんじゃないかな」ってわかったりするときとかが面白いんです。

いつもは決まったジャンルしか読まないのが、そこで新たに知った違うジャンルの方に手がでたりとか、そういう時ってなんか楽しい感がありますよね。

─じゃあ最近のヒット曲も聞いてみたりとか?

ああ、そういう意味では近田春夫さんの「考えるヒット」っていう、文藝春秋で書いているのがあるんですが、毎週2枚のCDを評論するんです。取り上げられている曲って、今だとYoutubeとかで検索するとすぐ聞けるじゃないですか、それでちょっと聞いてみて。それで「ああ、この曲をこういう風に言ってるんだ」とか分かると楽しい。
でも、何故か聞いてもすぐどんどん忘れちゃうんだけど(笑)

─とてもしなやかで締まったいいお体をしてらっしゃいますが、特別に鍛えたりとかはなさってますか?

ストレッチと、軽く走ることと、あとはちょっと自己流の体操みたいなことをやってます。家でもできるようなことなんですけど、怠けちゃうんで、だったらいくばくかお金を払ってジムに通えば、お金払ってるんだしっていう意識があるのでジムに通ったりもしています。

─ジムではTバックで水泳も?

水泳は…高校でてからずっとコンタクトなんですけど、顔に水をつけるのがいやなんです(笑)
だからずっと泳いでないので今泳げなくなってるかもしれないですね。

─すごく泳げそうに見えるんですけどね(笑)芸の練習はどのようにしているんですか?

上井草に総合運動場みたいなのがあるんです。
昔は夏の暑いときでも冬の寒い時でもそこで走って、芝生の広場で倒れこんだりのたうちまわったりする練習をしてたんです。

床で何回も転ぶ練習とかをやってると、近所の保育園とか幼稚園の子供が散歩とかでやってきて「なにやってるのー?」って聞いてくるんですよね。
中には真似する子とかもいて。そうすると保母さんが走ってとんできて「見ちゃいけませんッ!!」って連れてったり。
だけど、そういう割と白い目の中でやるっていうのも稽古のひとつですよね(笑)

天井高いっていうのも重要で、室内でやってると天井が低いんですけど、大道芸なんかは特には外でやるじゃないですか。
広いところでいきなりやるとビビっちゃうんで、広いところでぽつんと白い目でみられながら練習していると、割と精神的に強くなれるっていうか。

─un-paさんが、パフォーマーとして目指している人は?

影響をうけたり憧れている人はいっぱいいます。
高校生の頃は落語家の桂枝雀さんの落語のテープをたくさん買ってきてずっと聞いてました。今でもしょっちゅうではないですけど、寄席に行ったりもしています。

そのなかでも衝撃をうけたっていうのは、もう亡くなっちゃった方ですがマルセ太郎さんです。

山梨県の白州で田中泯さんっていう舞踏家の人が中心になって夏にイベントを開催していたんです。
ダンスだとか舞踏だとかをかじってた頃、そのイベントに僕もスタッフとして参加していました。

夏の間じゅう、舞踏などを30組位がやってるんです。
スタッフなので、夏の炎天下に一日5組とか見るんですよね。でも、連続して毎日見ていると、尖鋭すぎてっていうのもありますが、なんかもう面白いのか面白くないのか何がなんだかわからなくなってきちゃうんです。

そのイベントは、踊りだけじゃなくて、建築だとか、美術、演芸、芸能など多方面でいろんなゲストを呼んでやるんですけど、そのなかでマルセ太郎さんのステージがあったんです。

普段は東京や地方からのお客さんや、あとは田中泯のワークショップを受けるために世界中から来ている人たちが見に来てたりで、地元の人はそんなに来ていなかったんですが、マルセさんがやるときは、近所の農家やってるようなおじいちゃんおばあちゃんとか、普段は来ないような地元の方がぞろぞろとみんな集まってきてるんです。

マルセさんは、有楽町にあった日劇や浅草演芸ホールでやっていた有名人。パントマイムを取り入れた猿とニワトリの形態模写などは「マルセ太郎の猿芸は猿以上に猿だ」とか言われちゃうくらいのすごい人だったからなんでしょうけど。

その時は『スクリーンのない映画館』シリーズの映画『泥の河』を再現していました。
『スクリーンのない映画館』っていう芸は、マルセさんが一本の映画を身振り手振り声色を使いながらまるまる話芸として再現するんです。
こっちではこの人物、あっち側ではあの人物と、ある種 落語的に演じわけたり、映画に対する批評や、マルセさん自身の解釈などを交えながら2時間くらい延々と喋るんですが、これがまあ面白い。
まず内容自体おもしろいし、もともとパントマイムをやっていた方なので立ち姿とか動きとかもきれいなんですよ。

割と大きい括りで言えばお笑いなんです。でも笑わせながらも芯がしっかりしてる。とにかく目先のウケじゃなくて、しっかりした芯があって、それを届けるために笑いやいろんな技や芸を使いながら魅せる。

一部の人だけにわかるジャンルっていうわけでもなく、かといってその場が面白ければいいっていうわけでもない。

それこそ、先ほどと重複しますけど、“尖鋭的すぎる”人も、美術的な文脈とかもわからなくて全然見慣れてない人も、「よくわかんないけど面白かった」って言えるもの。
なので、マルセさんの芸を初めて見たとき「ああ、多分僕は理想的にはこういうことがしたいんだろうな」って思いました。

─un-paさんが描く今後の夢をお聞かせください。

大人になりたい…かな?
まあ僕って、いわゆる就職しているわけでもないですし。自分のことしか考えてきていない人生で、楽しければいいや、っていう。まあそういうのが悪いとは言わないんですけど、のんべんだらりと過ごしてきたわけですよ。

だけど、うーん、なんかまたも今回(震災)のことにからめると気持ち悪いんですけど、これからちょっと、日本っていう国がどうなっていくのかよくわかんなくて。
日本って恵まれた国だったから、今までは自分のやりたいことだけ考えて生きてこられたんですけど、そんな大層なことじゃなくても、やっぱりこう…だんだん中年って呼ばれる中に足をつっこんでて、この先どうなっていくのかな、って。なのでそういうことを考えていかないといけないんですけどね(笑)

子供の頃、大人って、もっとちゃんとしているってイメージだったんですよ。
でも「大人の年齢」になっても全然子供の時に思ってた大人じゃないっていう。

さっきのマルセ太郎っていう人に憧れるっていうのは、マルセさん非常に大人な人なんですよ。物の見方とかもそうですし。

大人っていうと酸いも甘いも噛み分けるっていうかんじじゃないですか。
中村吉右衛門演じるところの鬼平犯科帳みたいな?
もっと難しいことをいうと個の確立とかっていう…。そう言うと青臭い感じだなあ。

なので大人っていうのに非常に憧れてます。夢は大人になる(笑)言ってる時点でダメなかんじですよね。

日本と海外からくるものの境界線的な…そう、境界線的なものっていうのに僕は惹かれるんです。

─最後に、un-paさんから見る横浜の街のイメージをお聞かせください。

横浜っていうと、「港のある街」っていうイメージです。

港っていうと、外からくる何かと、内側にあるドメスティックな、地元的なものの間のつなぎの部分。いろんなモノがごちゃっと混ざってるような…。日本と海外からくるものの境界線的な…そう、境界線的なものっていうのに僕は惹かれるんです。
カテゴライズされている、これはこうです、これはこうです、っていうのじゃなくて。

例えば僕がやっていることで「あなたは何をやっている人なんですか」と聞かれた時に「僕はこれをやってる人です」って言えないんです。
ズバっと言いたいっていう欲求もあるんですけど、ある種のグレーゾーンっていうか境界線上にある“何々とも言えるし何々とも言える…”というような、そういう曖昧なかんじが好きで、港がある街っていうのはそういう点で一種独特の雰囲気っていうか匂いっていうかを醸し出してる気がするんです。

みなとみらいのすごく近代的な街並みと、昔ながらの寂れたおどろおどろしい…非常に昭和的な歌謡曲で歌われたような港町のいかがわしい感じとが、野毛近辺とか、日本大通りの県庁とか昔の建造物とか。
ある空間の中に近代的な場所もあれば昔ながらのどうしようもない昭和ブルース的なものもある。そういうところが魅力です。
逆に、全部が全部新しいものに作り替えちゃっているような所って、僕あんまり魅力を感じないんです。

横浜の人もそうだと思うんです。ヨコハマ大道芸のお客さんでも、昼間っから酔っ払ってる人とかも結構いますよね。
僕なんかは割とそういうひとたちは正直怖いなって思ったりする部分もあるんですけど、ショーをやってて、そういう“ちょっと怖いな”っていう人や、いろんな人たちが僕のパフォーマンスを見て喜んでくれるってのはうれしいんです。

まるで人間の恥部や暗部みたいなものを排除しているかのように、住み分けがハッキリしているのって、僕はちょっとやだなあって思うんです。
実際付き合うと正直面倒くさかったり迷惑だったりすることもあるんでしょうけど、だからといってそれは人間っていうもののある部分っていうものだから、ちゃんと見たり、知ったりしなきゃいけないわけですよね。

そういうことも含めて大人になりたいっていうことなのかなあ。
うーん、とりとめもなくてすみません(笑)

un-pa(ロービング)
ウンパ。石川県出身。日本ではまだ数少ない回遊型パフォーマンス・ロービング(ウォーキングアクト)のスペシャリスト。全身銀色のちょっぴり不気味な姿とはうらはらに、ユーモアと機知に富んだ演技は評価が高く国内外のフェスティバル・イベントへの出演多数。大道芸ワールドカップin静岡では2005年のロービング部門設立から6年連続出場。東京都公認ヘブンアーティスト。
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次回インタビューは奥田優子さん(予定)です。公開は6/1を予定しています。お楽しみに!

取材・文・写真/木村 綾